日本では毎年9万人以上の女性が乳がんを発症しますが、そのうち7-10%が遺伝性の乳がんであるといわれています。遺伝性乳癌とは、うまれつきの遺伝子の変化による体質を素因として、乳がんに罹患しやすい家族内で発症する乳がんの総称です。
HBOCは遺伝性乳がんの内、BRCA1やBRCA2遺伝子に変化がある場合をさし、遺伝性乳がんの半分以上の原因となっています。BRCA1あるいはBRCA2遺伝子の変化は、性別に関係なく50%の確率で親から子へ受け継がれます。HBOCでは、乳癌の他にも卵巣がんや膵臓がん、男性では前立腺がんのリスクになることが分かっています。
ご自身が乳がんと診断された場合、以下の条件にあてはまる患者さんはHBOCの可能性を考え、保険診療で遺伝学的検査を受けることができます。
1) | 45才以下の発症 |
2) | 60才以下のトリプルネガティブ乳がん |
3) | 2個以上の原発乳がんの発症(両側、片側、同時性、異時性いずれも) |
4) | 第3近親者※内に乳がんまたは卵巣がん発症者がいる |
5) | 男性乳がん |
6) | PARP阻害剤にたいするコンパニオン診断の適格基準を満たす場合 |
※第3近親者:父母、兄弟姉妹、異母・異父の兄弟姉妹、子供、おい・めい、おじ・おば、祖父・祖母、大おじ・大おば、いとこ、孫など |
遺伝ときくと、少し怖いと思われるかもしれません。しかし乳がんの治療を考えた場合、その情報は、各々の患者さんの価値観に沿った最適な治療法選択に対し、非常に重要な役割をもちます。
例えば乳がんの手術方法を考えるとき、乳房を温存して部分切除にするのか、乳房内再発の可能性を考慮して罹患乳房を全切除するのか、温存するにしてもその後の経過観察の頻度や方法をどうしていくのかなど、リスクを知った上で対応することが可能となります。
また再発の際には、HBOCの患者さん特異的に効果が期待できる、いわゆる分子標的薬のPARP阻害剤を使用することができます。
さらに2020年4月からは、新たながんの発生を予防するために、対側乳房、卵管・卵巣のリスク低減手術とその際の乳房再建が、一定の条件を満たす医療機関(熊本では熊本大学病院)において、保険診療で受けられるようになっています。
遺伝学的検査から得られる結果は、変わることのない普遍的な情報です。御家族にも関わりある情報ですので、知ることによる心理的影響も考えられます。ご家族に乳癌や卵巣がんに罹患した方がいるが、HBOCの検査を受けるか決めかねている、受けたいが不安があるなど、心配な場合はまずはご相談下さい(問い合わせ先:TEL096-366-1155 乳腺外来 玉田)。検査を受けても受けなくても、各々の患者さんが最適な治療法を選択できるように、サポートいたします。